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私の自動車五十年史 第二十二回

2018-08-20

カテゴリー:未分類

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『私の自動車五十年史』 第二十二回  代表取締役会長 河村益孝

 

さて風呂の話に入るが、夏はたらいの行水で十分済ませるも、風が冷たくなり始めると行水いう訳にも行かず、町の銭湯ということになり、着替え、金盥、石鹸、タオルを風呂敷に包み、往復三時間を費やし、帰宅したときには冬など完全に冷め切っていた。

今日なら一度タオルで顔を拭えば、そのまま洗濯という時代であるが、当時は1枚のタオルで顔や手を家族中で拭く始末。

美しく洗った顔や手を拭くならともかく汚れていても何でも拭くばかりで洗うことなどなく、とにかく汚れてタオルか雑巾か分からないほどとなり、銭湯に持ち込み体洗いに使えば洗濯する以上に美しく…が我が家の常となっていた。

然し、汚れも既に度を越して汚れきっているので、白く元に戻ることはなくネズミ色であった。

その日も、今日は学校から帰ったら銭湯に行くように家族から言われ、電車賃と銭湯代を受け取り、午後から大津に向かった。

時には銭湯休みがあり、別の銭湯をと、幾つかの銭湯へと足を運んだものである。

月に二、三度とは言え一年になると相当通うこととなり、銭湯の開く時間を手始めに番台に座るおばさんの顔から常連客の顔まで覚えるようになった。

その日は三時に着いた。銭湯の開く時間で中から湯気の香りはするものの、人の気配もなく、一番風呂に入れる…と思ったが、既に近の暇な御隠居が湯舟に浸かって湯をかき混ぜている。

一番風呂はとにかく熱いのが普通。蛇口の水は出しっ放しで、熱い熱いと言いながらかき混ぜている。
横に私も入り一緒にかき混ぜた。

濛々たる湯気の中、腹の突き出た御隠居の持つ真っ白いタオルと私の持つ黒いタオルが絡まり「あっ」と思う間に手から離れた。

御隠居が動かす白いタオルに、何か黒く汚れた布が絡まっていることに気づき、いったいそれは何?と盛んに動かしていた手を止め、注目する様子が見て取れた。

 

 

(続く)


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